〈繋げるプロジェクト〉
「日本のワカサギを支える芦ノ湖」~芦ノ湖漁協~ 芦ノ湖名物ワカサギ

芦ノ湖漁協
芦ノ湖名物のワカサギ
ワカサギといえば冬の時期、氷で覆われた湖に穴を開けて釣り上げる。そのようなイメージから北の地域に多く生息していそうだが、箱根町の芦ノ湖では湖周辺にワカサギと書かれた料理店が並ぶほど豊富に獲ることができる。そんな芦ノ湖では3月頃からワカサギの卵を採卵し、芦ノ湖へ稚魚を放流、他の湖沼へ卵を分譲している。今回お話をお伺いしたのは芦之湖漁協さんの採卵場。ここではワカサギの産卵の時期になるとワカサギの採卵、ふ化、放流を一つの施設で行っている。
ワカサギに直接触れない採卵
採卵するためのワカサギ親魚を漁獲するのは定置網で行われている。その網の設置場所は岸から伸ばして固定できるほど浅瀬にある。ワカサギ親魚は日中、明るい時間帯には湖の深い場所に生息している。産卵の時期になると夜中に浅瀬へやってきて岸沿いに泳ぐそうだ。岸からのびた網があると、泳いできたワカサギ親魚は網にぶつかり網に沿って泳ぐ。その先にある籠へと入っていく仕組みである。この仕掛けを芦ノ湖内に4つ設置し、多い時には200kgのワカサギ親魚がとれるとのこと。取材した日の前日には1か所で150kgものワカサギ親魚が漁獲できたようだ。 漁獲したワカサギ親魚は採卵場の水槽にいれられる。底には穴の開いた板が敷かれてあり午前中に漁獲したワカサギ親魚は翌日まで安置すると、黄色の卵が底に溜まっている。卵は成魚の漁獲量に対して約10%採れるとのこと。50kgなら5kg、多い時の200kgなら20kgもの卵が採取できる。そして卵は1gあたり2千粒の数があるとのこと。200kg成魚が漁獲できた時は4千万粒の受精卵が採れる。芦之湖漁協では、1年間に3億匹の稚魚を放流している。また、採取した卵を別の湖へと販売も行っているそうだ。毎年、安定して提供できる量から約20の湖沼へと送っている。
産卵を終えたワカサギ親魚は、翌日に施設から湖へ直接つながってい水路を通って放流される。ワカサギの産卵は1度では終わらず、何回も行われるそうだ。なので、産卵を終えたからといってすぐに力尽きてしまうのではない。現在の方式では、魚を弱らせることなく採卵することができる。この方式が行われるようになったのは今から約25年前、それまでは漁獲したワカサギ親魚から手で絞って採卵していたとのこと。昔の方式ではワカサギを弱らせてしまうのに加えて、人手も多く必要だった。また、オスとメスの違いを見分ける必要もあったため、誰でも簡単に仕分けられることができず、ひたすら経験を積む必要があり、卵を強制的に絞り出すため成熟具合にもバラツキがあった。今の方式(水槽内自然産卵法 芦ノ湖方式)は受精率が90%に対して昔の方式(搾出法)では50%程度。今ではワカサギを弱らせることなく、安定して持続可能的に採卵をつづけることができる。
日本中の湖へ
ワカサギの卵は岩につくように粘り気がある。その粘り気をとるために粘土処理が行われる。小型の洗濯機の中に卵と陶芸用の粘土を入れて混ぜることで卵の上からコーティングされてバラバラになりやすくなる。その状態になってからふるいにかけることでゴミと分けてようやくふ化用の水槽へといれることができる。ふ化用の水槽は透明な円筒状のもので、上のほうには小さな管が取り付けられている。透明な理由は卵に異常があったときにすぐに気づけるようにするためだ。ふ化した稚魚は管を通って水路へと泳いでいき、湖へと放流されていく。稚魚は卵からふ化してすぐに動物性プランクトンを食べないと消化器官がつながらず餓死してしまう。そうならないように、この施設では直接与えることで生存率をあげている。
施設内で使われている水は湖の水ではなく地下水をくみ上げて使っている。地下水のメリットは湖の水と違って常に水温が13.7度で安定していること、日によって濁ったりしないことだ。温度が安定していることでふ化までの日数に予想がつきやすく、1週間で発眼し、2週間でふ化する。ふ化したワカサギは基本的には1年で成魚になり、産卵を行う。ワカサギが成長するうえで欠かせないのは雨だ。芦ノ湖を囲う箱根山系に降った雨によってプランクトンの餌となる栄養が流入することでワカサギの栄養になるのだ。芦ノ湖のように安定してワカサギが増えることができるのは日本では少ないとのこと。およそ20の湖沼に芦ノ湖のワカサギの卵を分譲しているが、需要はそれ以上にある。だが、ワカサギは自然のものであり年によって採卵できる量も安定しない。芦ノ湖のワカサギを守り続けるためにも、分譲先の湖沼のワカサギを安定して供給するために、欲を出さずに採卵を行っている。 最後にワカサギが美味しい時期は秋ごろとのこと。秋になったら是非箱根へ訪れて旬のワカサギを味わっていただきたい。

